公開日2024.10.8
アメリカの哲学者パースによれば記号とは「それによってそれ以外のなにものかを代理して表現するもの」です。たとえば「りんご」という言葉は実際のりんごのかわりにりんごを表現する記号であるし、「日の丸」が日本を象徴する場合は日の丸が日本を表現する記号になるといった具合です。そしてさらに彼は「人間は記号である」と書いています。それはつまり人間は彼自身のうちなる言葉や信念によってなりたっているというのです。
精神医学の世界はある面からすれば「あるひとの記号を読み解くプロセス」ともいえます。そのひとの言動や反応を観察しながら、彼または彼女のこの言葉や行動はどういう文脈のなかでどういうニュアンスをもって表現されたものなのかを推理していく。推理小説を読み進めていくようなもの。ただし必ず謎が解明されるわけではありません。それは自分自身をふりかえってみれば分かるように、自分が何者なのかということはそれほど明らかではありません。
わたしたちが生きていくこと自体が周囲のひとびとや社会と記号をやりとりしながらその記号を解読していくプロセスであり、そういうプロセスのなかで自分という記号もあきらかにしていくプロセスでもあります。